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いろいろとうまくいかない、10代女子を中心としたオムニバスショート
基本的に
 ちょっと変わったコミュニケーションをとる女の子の日常が最後まで続く
のだけどなかには
 ちょっと変わったコミュニケーションをとる女の子の日常が続くと思いきや最後にどんでん返しをくらう
という爆弾が混じっている

とくに後者のパターンのオチがこの作品の魅力。
軽く笑い飛ばせるものだけでなくちょっとゾッとするものもあり、
こういうところは少年誌のレベルを超えているような印象。
そして作者が数ページでできることを心得てるというか。
最後のページを開くまで物語がどう転ぶか分からない。

圧倒的に後者のほうが面白いわけだけど
それは前者のような"べつに心がざわつくわけでもない"話があって初めてそのなかで光るから
週刊連載の結果かもしれないけど単に奇を衒ったような話ばっかりではなく
ありがちな話もこの人なりの描き方で挟んでくるのはアリ。

際立った我を持ついかにも人間的な登場人物たちは(萌え絵も相まって)
もれなく全員好きになってしまう。
ただ、"強がる女子"がワンパターンな気もする。
そういうキャラが作品の特徴でもあるんだろうけど。


新人だとか1巻は発売翌日に重版しただとかチャンピオンの懐の深さだとか
なんだか色々言われているけどまあ一度読まないことには。
一話ごと読みきりのはずなので本誌で試し読みするのが良いかも。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2012-07-21 16:49:36] [修正:2012-07-21 16:49:36] [このレビューのURL]

実に漫画らしい漫画のオンパレードである。
収録作全般にテンポもよく、ありきたりなようでいて読者を牽引する強烈な勢いと
無理やり世界に引き込んでしまう妙な力がある。
さらっと読んでさっくり素直に楽しめる一品。

氏の原点と呼んで過言ではないほどに、作家としての特色が濃縮されているように思う。
是非一度手にとってみてもらいたい。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2012-07-18 23:20:28] [修正:2012-07-18 23:21:15] [このレビューのURL]

登場人物全般に妙な"生っぽさ"が漂う変わった漫画。

人が生きている、ということはどういうことなのかといった思考実験のようでもあるが、
娯楽を基本としたいであろう作者の意図も端々に見え隠れし、なんとも複雑な作品である。

読み手は選ぶと思われるが、この絶妙なライブ感と時折漫画のキャラであることを思い出させる
虚構の狭間にある独特の空気感が大変に面白い。
作画もこざっぱりと綺麗にまとまった線で読みやすく、
反面演出からセリフ回しまで周到な計算高さも感じる。が、実に嫌味がない。
類稀な客観的俯瞰視点をもったリアリストに思える。

キャラクターの表情の豊かさとは裏腹に さぁ笑え、さぁ泣け といった
誇張された露骨なエンターテイメント性が最重要視された漫画ではない。
初期にはそういった部分も散見されるが、はっきりいってこの人は
そういうどストレートな作風の漫画書いてもたいして面白くないと思われる。

まぁ、読み解くとかテーマとか意味考えるとかめんどくさい、簡潔に感動したい笑いたい
という分かり易さを重視する人には激しくおすすめしない。
他にいくらでも良作はある。

ごく個人的には今後も追いかけていきたい漫画家の一人。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2012-07-18 19:14:13] [修正:2012-07-18 22:56:26] [このレビューのURL]

完結しています。全巻読みました。

もはや語るまでもない名作中の名作。
子供の頃から枕元に全巻置いて数え切れないぐらい通しで読んだ自分にとっての人生のバイブル的な漫画。
この漫画に10点をつけなかったら、他のどの作品にも10点は付けられない。
10点ッ つけずにはいられないッッ! というテンションで10点です。

何度も読んでますが、何度読んでも面白い。というか一回通しで読んだ程度ではこの作品の本当の良さは分からないでしょう。
また、一回目よりも2回目、3回目読んだ時の方が面白いという珍しい漫画でもあります。

最近でも世の中ではまた何度目かのブームが来てますが、少年漫画の金字塔的な作品でも、ここまで長年話題に上り続ける作品は他にありません。
世の中の作品に対する認知度はドラゴンボールやスラムダンクの方が上だと思いますが、ディープなファンの多い漫画としては、ジョジョを上回る作品は無いような気がします。
この作品を一番に挙げるような読者は、きっと他の漫画では考えられないくらい何度も読み、その度に面白さを痛感しているのだと思います。分かりますその気持ち。もはや愛ですね。

ストーリーもキャラクターもバトルも全てが面白く、深く、熱いのですが、敢えてココがすごいというのを挙げるなら、「心理戦」だと思います。
3部のVSダービー兄、4部のVSじゃんけん小僧など、肉弾戦の無い心理戦のみのバトル展開で、あそこまでクオリティの高いバトルを描けるところが素晴らしい。
じゃんけん小僧とか、あんなに息の詰まるような迫力のあるじゃんけんは、後にも先にも荒木先生以外には表現できないでしょう。

初めて読む方は3部か4部あたりから読むと入り易いと思います。
絵が苦手という方も多いのではないかと思いますが、不思議と読んでる間に絵も好きになりますので大丈夫です。万が一、読んだけど絵がダメだとおっしゃる方がいるのなら、その方のセンスがダサいので諦めましょう。

個人的には第五部が一番好きです。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2012-04-16 15:26:23] [修正:2012-07-11 13:59:19] [このレビューのURL]

 夢野久作×丸尾末広ですよ…! 恐らく乱歩と並んでこのタッグを待ち望んでいた人も多いはず。後は泉鏡花なんてどうでしょうか丸尾先生。

 本作は表題作である夢野久作の「瓶詰の地獄」以下4作が収録された丸尾末広の作品集。

 瓶詰の地獄は夢野久作の少なくはない短編の中でもベストオブベストの一つに挙げられると思う。事故により天国のような無人島に流れ着いた兄妹の禁忌と苦悩が3つの書簡を通して描かれていく。
 これはもうさすが丸尾末広という素晴らしさ。幸福な楽園であった島。しかし唯一の秩序であった聖書を信ずる心が内から芽生えた禁忌によって脅かされた瞬間、そこは地獄に変転する。丸尾末広はどこまでも美しく、どこまでも狂おしく内から楽園が崩壊していく様を象徴的に描ききる。圧倒的なビジュアルイメージにくらくら。

 瓶詰の地獄をより印象的な作品としているのが、色んな解釈の幅が残されていることに加えて、作中にいくらかの矛盾点が見られるというのがあって…。それらも突き詰めて考えていくと想像の地平にはキリがなくて、でもだからこそ掌編とは思えないほどこの作品は味わい深い。一つだけ文句があるとすれば、このコミカライズでは丸尾末広の解釈で新たな瓶詰の地獄の世界を読みたかった。再現性でいえばこれ以上のものはないだろうけれど、最後に読者にぶん投げてお茶を濁すのはどうだろうと思わないでもなかったり。

 一転してコミカルな「聖アントワーヌの誘惑」。こちらは絵は楽しいものの、今ひとつ自分の中のおもしろさにリンクせず。笑わせにきてるのかがあんまり確信できないままふわふわしてる感じというか。別に愉快でもないしなぁ。
 
 落語を原作としたとことん皮肉な諧謔に満ちた「黄金餅」。こちらはけっこうアレンジされているのだけれど、秀逸。落語の方は、善良な一般人ですらも金を手にするためならこうまでやるか…というものだったのに対して、丸尾版の登場人物はみんなストレートに強欲。そして強欲が強欲にどんどん食われていくその様。どうしても逃れられない人間の強欲さという業を強烈に感じるのは変わらない。

 とことんアンハッピーな「かわいそうな姉」。エドワード・ゴーリーの「不幸な子供」を意識しているのかと思うのだけれど、どうだろう。ゴーリーのような何かもう笑ってしまう程の芸術的な小気味よさで語られる不幸のオンパレードというわけではなくて、情念がこもってるだけにひたすら後味が悪い。難しいなぁ…あんまり好みではないかも。

 しかし時代時代の文化や風俗を一つのコマの中にさりげなく落とし込んで独自の世界を作ってしまえる丸尾末広はやっぱりすごい。話はそれぞれ好みが分かれるかもしれないけれど、絵を眺めるだけでも満足だったり。瓶詰の地獄や黄金餅は特にお気に入りです。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2012-07-10 23:32:20] [修正:2012-07-10 23:32:20] [このレビューのURL]

やだもうこの人、色々こじらせ過ぎ!
容姿端麗、頭脳明晰、モテル仕草もバッチリ備えている関根くん。
なのに中身が色々残念すぎて、読んでいてハラハラと楽しめました。
関根くんの描写が上手すぎます。

ややこしい関根くんの内面にどんどん色々な指摘をして切り込んで
いくサラちゃん。それに動揺してわけ分からない行動をとってしまう
関根くん。二人の微妙な関係もたまりません。

1年で1冊ペースなのが残念。
とりあえず3巻まで読んで7点。
久々に先が楽しみな恋愛漫画です。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2012-07-10 02:11:59] [修正:2012-07-10 02:11:59] [このレビューのURL]

リアルな日常、友情、恋愛、恐怖
巻数は少ないが内容はとても充実していて濃い。
読んでいてここまで展開にドキドキさせられるマンガはそう無い。
特に緊迫するシーンでは空気が張り詰めてしまう。
リアルな緊迫感と恐怖とニヤニヤしてしまうような展開を楽しむ作品。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2012-07-01 01:21:00] [修正:2012-07-01 01:21:00] [このレビューのURL]

12/6/29 得点修正(7→8) 加筆あり

 週刊少年チャンピオンに連載中の主に10代の少女(時々少年)を主人公にしたオムニバス形式の短篇集で、一部の話を除き各編同士の物語の連続性は基本的に無い。最近のチャンピオンのショート漫画には『侵略!イカ娘』などかなりヒットする作品も出現するなどなかなか目の離せない作品が多かったが、本作も少女少年の短篇集というよくある形式にも関わらず非常に独特の味わいを持ち読者の心をざわざわとざわつかせる作品に仕上がっており、各所で話題になっているのも素直に頷ける。

 作者の阿部共美はチャンピオンに掲載された読切の『破壊症候群』がデビュー作だが、これも人並み外れた怪力を持つ少女が悪を成敗するというありふれたスラップスティックコメディの形態をとりながらも、癖の強いキャラクターデザイン、ハイテンションすぎる会話劇、少女の破壊衝動など随所に覗かせるブラックな変態性などの逸脱っぷりがとても印象的だった。そしてそんな作者の持ち味は本誌本格連載となった本作でも失われること無く…どころかますますパワーアップを果たしていたのである。
 
 少女や少年の揺れる心模様を描いたオムニバスストーリー集といえば得てして恋や友情、親や世間との関係性の葛藤などを描いたものになると相場は決まっているが、とても本作はそんな枠組みでは括りきれない。確かに物語の根底にあるのはそういった普遍的テーマかもしれないが、物語の狂言回しを務めるキャラたちの多くはテンション高すぎるか思い込み激しすぎる人達ばかりで、“等身大”とかそういう言葉とは程遠い思考と行動を突っ走る。
 一例を挙げると第一話の主人公である恥ずかしがり屋を直したい女の子は、矯正手段としてバニーガール姿で「うひょひょひょひょ」と夜道を飛び回ったりする。他にも女性の裸に飽きたらず薄皮一枚下の内蔵を見てみたいと言う男や、人一倍怖がりなくせに同時に人一倍怖いもの見たさでずるずると恐怖の深みにはまっていく少女、「世界は悪に満ちている」と思い込みいい年して定職にもつかず魔法少女のコスプレで町中をパトロール(というか徘徊)する女、など癖の強すぎる人達が現れては消え消えては現れ、その結果全体的には様々に提示される「心模様の万華鏡」とでも呼ぶべき幻惑的な美しさとつかみ所のない危うさが併存する作品になっている。
 尚、そういう極端すぎる人達を扱った作品以外にも、ボーイッシュな少女と気弱な少年の話「夏がはじまる」など比較的普通の人達が主体の話もあるが、共通しているのは決して順風満帆には終わらない心ざわつかせるストーリーテリングだ。結末にどんでん返しのまま投げっぱなしになる話が多く、“余韻”と一言で済ますにはあまりに不穏な空気作りがとてもうまい。

 キャラクターデザインは非常に記号的。他作品と比べても瞳が際立って大きく描かれ肌は透き通るように白く、体はちょっとつまむとそのままぷちっとちぎれてしまいそうなくらい可愛い。しかし記号的であるはずのその描線は昼間っから公園のベンチで弁当を喰うおっさんなど時折残酷なレベルでリアルな瞬間を捉える事があり、透き通るような白は何かの表紙にどす黒い漆黒へと容易に転じ、ぷちっとちぎれそうな柔らかい造形の下には血液と内蔵にまみれたグロテスクさが顔をのぞかせそうになる瞬間も描かれる。そんな見た目の可愛らしさの裏に潜むものを作者は描くことを心得ているのである。(新房昭之監督のアニメ作品に通じるセンスを感じる)

 おかしい話、悲しい話、可愛らしい話、不気味な話、様々なままならぬ人達が七転八倒する万華鏡、総じてその読後感は白黒つかないまさに「灰色」。そしてその灰色を拡大してみると、そこには交互に明滅する無数の際立つ白と黒が……。

 現在の連載を追う限り二巻以降もそのクオリティは保証(というかむしろ向上中)なので今後も期待が持てる一作である。作者の感性は非常に独特なものがあるが果たしてこういう際立った感性が今後も時と共に維持されていくかどうかは現時点ではわからないので、“今”しか描かれ得ない作品である危険性も否定出来ない。ぜひリアルタイムで追いかけたい作品だ。

------------以下加筆-----------------------------------------

やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい
やばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばいやばい

絶対普通じゃない絶対普通じゃない絶対普通じゃない絶対普通じゃない
絶対普通じゃない絶対普通じゃない絶対普通じゃない絶対普通じゃない
絶対普通じゃない絶対普通じゃない絶対普通じゃない絶対読むべしぜった

ナイスレビュー: 1

[投稿:2012-04-01 00:43:49] [修正:2012-06-29 01:00:32] [このレビューのURL]

10点 寄生獣

文句なしで最高得点をつけました。
なんといってもストーリーが素晴らしい。
そしてセリフで説明しすぎない、まるで文学作品のような演出!
たとえば新一の髪型。
最初は普通に下ろしているけど、ミギーが混ざって強くなるとともに人間性を失ったらオールバックに。
そして後藤との戦いでミギーを失ったら、川に落ちてずぶぬれになることで、再び髪型が最初に戻る。
つまり髪型で新一の心の状態を表現しているわけです。
三木が三人で、後藤が五頭(ごとう)だったり、読者が気づけばそれでよし、気づかなくても説明しないあたりが、すごいなあと思います。
初めて借りた6巻までは、読み始めたら、まさにとまらず読んでしまいました。
もし10巻まであったら、徹夜して読んでしまったでしょう。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2012-06-27 20:56:37] [修正:2012-06-27 20:56:37] [このレビューのURL]

10点 羣青

 本当にすさまじい漫画。読んでいると、いつの間にか息が止まっていることに気付いたり。体の変な所に力が入っていたり。知らないうちに滂沱していたり。読んだ後に30分くらい放心状態で天井眺めていたり。その後眠ろうとしても全然寝付けなかったり。そんな漫画はなかなかない。

 もう内容はと言えば、どろどろでぼろぼろな悲劇。惚れた女の旦那を殺したレズ女と旦那の暴力に耐えかねてレズ女に旦那を殺すよう頼んだめがね女、二人の宛のない逃避行が始まる。
 女二人の逃避行といえばやっぱりテルマ&ルイーズだったり、もしくは人を殺すことに追随する負を描くという意味であれば罪と罰だったり、内容面での新鮮味はそんなにないのだけれども。しかし羣青がすさまじいのは、圧倒的に本物ということだ。

 羣青はすんごく重い。本当にどろどろでぼろぼろで狂おしくて。でも重い話というだけなら、別に珍しくはない。そもそも読み物で何億人死のうと、現実における一人の死とは比べ物にならないわけで。話が重ければ重いほど、舞台が現実であればあるほど、私達はその乖離を痛感させられてきたと思う。
 ただ羣青が他と圧倒的に違ったのは、いつもそこにあったはずの現実と読み物を隔てる厚いフィルターが限界までぶち破られていたことで。羣青において人が死んだら、傷つけられたら、本当にそうであるように感じられた。どこまでもどうしようもない後悔とか、糞みたいな愛とか、底の見えない憎悪とか。二人の感情の濁流というのが直にドカンと来た。

 そう、本当に濁流。漉されていない大量の感情。だからこそ自分と全く縁もないこんな二人にありえないほど感情移入してしまう。移入するというかもう引きずり込まれてしまう。没入にも程があるくらい没入して、気付いたら滂沱しちゃっている。すごすぎる。
 何でこんな作品を描けるのかって考えた時に、そりゃあ中村珍の技量や漫画に対する真摯な姿勢はもちろんあるのだけれども、それでもこれはありえない気がする。それを可能になさしめたのは帯に書かれているように“魂”としか言えないのかなと。完全に一線を踏み越えてしまっていると思う。

 もう何か言葉にすればするほど嘘になっていく感じがして、でも多分それが本物ということだ。絵は癖があるし、ページ数や値段も含めてなかなか買いにくい作品なのだけれど、頭をぶん殴られたような衝撃を味わいたい人は必読。まじで大傑作です。

[完結によせて]
 羣青という作品は、愛や孤独、理解しあうことを描いた作品だった。人と人は決して本当には一つになれないこと。本当の意味で他者を理解することは出来ないこと。もちろんこれらは羣青だけではなく、数多くの作品で描かれてきた普遍的なテーマだ。
 特にSFというジャンルはこれらのテーマを得意としてきたように思う。宇宙人が誰かの頭の中に乗り移ったり、人類が個体の枠組みを超えた一つの生命体となったり…。空想の世界の中では、人がひとりぼっちから解放されることは容易かった。

 羣青の何が特別かというと、驚くほどにこれらのテーマに真正面から立ち向かっているということで。だからこそ羣青を読むと息苦しいし、“愛”という言葉が全く似つかわしくないほどこの作品は泥臭い。

 とにかく執拗に自己と他者の世界のずれが提示されていく。主人公であるメガネさんとレズさんの世界は決して交わることはないし、理解しあうことはない。何度も何度も彼らはぶつかり合い、すれ違い続ける。
 極め付けが、メガネさんとレズさんの兄貴との会話であり、レズさんとレズさんの元彼女さんの母親との関係性だ。レズさんの兄貴も、レズさんの元彼女さんの母親も決して悪い人間ではなくて、むしろ正しくて立派な人間なのだろう。しかし彼らの言葉や態度はどうしようもなく上滑りしていく。カウンセリングだろうが友人のアドバイスだろうが何でも良いのだけれど、理解を示す人間が、ああこいつ何にも分かってないんだなって逆に絶望を加速させてしまうことがあるじゃない。それは正しいとか悪いとかいう問題ではないわけで。中村珍はこの人間同士の世界のずれを執拗に、絶望的に繰り返し描き出していく。本当にたまらない。

 そして二人が辿りついたところが「知り合わなきゃ、絶対幸せだったのに…」であり、さらにもう一つの台詞が連なっていくのだ。

 行き着くところまで行き着いてくれたという実感。作者の蛮勇に心から拍手。この真理に持ってゆきたいがために上中下巻、決して短くはないページ数で濃い物語を綴ってきたんだなぁ。
 中村珍にしか描けない泥にまみれた愛であり、人間賛歌だった。きっつい作品だったけれども、そのきつさ以上のものをもらった漫画だった。こんな業の深い漫画はなかなか読めるもんじゃない。

ナイスレビュー: 1

[投稿:2012-02-16 02:27:22] [修正:2012-06-24 11:19:50] [このレビューのURL]

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