「朔太」さんのページ

総レビュー数: 821レビュー(全て表示) 最終投稿: 2010年01月09日

8点 海猿

映画化された「海猿」との比較で言えば、全然別物でした。
映画の方は、海難事故の怖さ、絶対絶命の状況からの
生還だけがクローズアップされていましたが、
漫画原作の方はやたらと仲間、先輩が死んでしまいますし、
婚約者がいる恋人を寝取ってしまう結末なので、相当複雑ですね。

単純な海難事故だけではなく、銃や武器を持った海賊と対峙
しながらそれでも攻撃は無論不可能だし、救難すること
しかできないとか、国籍不明の不審船への政治的対応の
限界など、海上保安庁の現実の悩みが良く理解できる構成でした。

「め組の大吾」を連想する方も多いようです。
大吾の病的なレスキュー魂とはちょっと違う使命感に
突き動かされる大輔の方が、同じく超人的ではありますが人間味がありました。
主人公の人間性で言えば、「ブラックジャックによろしく」
とは共通するものがあります。
佐藤秀峰氏の価値観が反映されているのでしょうか。

本作品の価値を決定づけているのは、最後の航空機事故編ですね。
御巣鷹山に激突墜落した全日空機事故に着想を得ている
ことは誰の目にも明らかです。
生き残った機長の生きざまに焦点を合わせたドラマ性は
圧倒的な迫力で迫ってきました。
大団円という言葉がしっくりくるぐらい、ここの出来が
大変すばらしいと思います。


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[投稿:2019-02-13 00:36:59] [修正:2019-02-13 00:36:59] [このレビューのURL]

[ネタバレあり]

「わにとかげぎす」とは、深海に生息する
「ワニトカゲギス目ワニトカゲギス属」という魚類のこと。
寝てばかりの人生を送ってきた、友人も恋人もいない
ままに38歳になってしまった男を深海魚に例えたということのようです。

レジェンド稲中卓球部から一転、僕といっしょをはさんで、
グリーンヒル以降社会的無力者を一貫して主人公にして描いてきました。
本作でもシガテラと構図は一緒です。
しかし、当初から羽田さんの存在があることで、
極限の絶望には至ることがない点で比較的楽に読むことができました。
お約束の展開ではありますが、単なる変人、偏執狂、オタク
だけではなく、狂気をはらんだヤクザや殺人狂まで
登場しますので、サスペンスまがいのあれこれにも遭遇します。

それでも深海に沈む深海魚である主人公を救いだしたい
羽田さんは天使のようです。
ちょっと非現実的な気もしますが、羽田さん自身も
やや病んだ面をコンプレックスに感じているようなので、
それもありかなと理解しました。

古谷氏の一連の作品は、一見して社会的に価値のなさそうな
主人公を立てて、「孤独、無力、弱者の絶望」をテーマに
しつつ連載が始まりますが、最終話を読み終えると、
こんな自分でも生きてて良いのだと思わせてくれる不思議さ、
未来への希望を感じさせてくれます。

好きな漫画家さんの一人です。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2018-12-27 23:06:36] [修正:2018-12-27 23:06:36] [このレビューのURL]

8点

オトナの社会科見学マンガとは、言い得て妙です。
ただし、タイトルにあるような銭、すなわちお金に
まつわる裏側の事情と謳っているわりには、
いまいち踏み込みが足りないなあ、という印象です。
金貸しの世界を徹底的に抉り出した「なにわ金融道」の
方がすごみがありましたね。

本作は代わりに、各業界特有の事情、力関係などの解剖に
余念がなく、面白く読ませてもらいました。
また、圧倒的に画力があり、女性も可愛い系、美人系、
普通系、ブブ系、全てに描き分けられる力がありますので、
漫画としての価値は高いでしょう。

この種の社会科見学系漫画はもっと読みたいニーズはあると
思いますので、鈴木みそ先生の更なるご活躍を期待します。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2018-09-22 04:11:30] [修正:2018-09-22 04:11:30] [このレビューのURL]

8点 JIN -仁-

江戸時代にタイムスリップした現代医師南方仁を中心に
据えた幕末と明治維新の歴史漫画あるいは医療漫画ということです。

タイムスリップということでSFかと思いきや、これは
「あとがき」で作者自身の説明によると、
現代医学を江戸時代に持ち込むための方便だったようで
意外でした。
本当に描きたかったのは、梅毒他感染症に苦しむ当時の
遊女や庶民の苦しみだったようで、漫画の中だけでも
彼らの無念を晴らせないかと考えたということです。
読者の想像もつかないところで創作意欲というものが
生まれるようで驚きました。

作者の意図とは別に、医療漫画というより明治維新を
背景にした当時を生きた人々の活力、清々しさの方が
作品の魅力になりました。
登場人物皆が凛としており、主人公南方仁も現代へ
戻ることよりも江戸時代に生き、積極的な歴史への
参画を始める動機が生まれます。
当時の人々の生き方が関与しているように見えます。

SFとしての締め方には納得できるものではありませんが、
それは本作品では些事なので、とやかく言っては
いけないようです。
歴史を操って人物の清々しさで勝負する点は、
どうしても「龍」との類似性を感じてしまいますが、
村上もとかの真骨頂とも言えますので良しとします。

記憶に残る作品です。

ナイスレビュー: 2

[投稿:2018-01-02 14:33:44] [修正:2018-01-02 14:33:44] [このレビューのURL]

歴史文学のような、あるいは大河ドラマのようなテイストがあります。
漫画版大河ドラマがぴったりくる形容ですね。

歴史の起伏をさも大事に描くのではなく、龍という一人の
人間の目を通して、あくまでもその時代を生きた人間の
今を淡々と書き記していくスタイルです。
もちろん、命を狙われる、追われるのアクションやスリルが
ドラマの中に散りばめられているのですが、それは
大局的には些細なことのように思えるから不思議です。

龍の視線の先には、水平線の向こうがあります。
その志の高さに人間としての器や爽やかさを感じます。
これが本作品の魅力です。
決して歴史が先にあって、人間がその流れの中に
生きているのではなく、当然のことですがその真逆なんだと
いうことを強く感じさせられます。


ナイスレビュー: 0

[投稿:2017-11-03 21:02:09] [修正:2017-11-03 21:05:33] [このレビューのURL]

主人公がMIT出身の高校生という設定で、数学的な解決が
多くみられるのが特徴です。
したがって、トンでもトリックはほぼ皆無でした。
理にかなった謎あるいは謎解きなので、満足度が
高いミステリー作品になっていました。

月1回1話完結のキチンとした短編読み切りになっています。
他の少年誌ミステリーに比べても良質で正攻法の
ストーリーになっていますので、月刊誌ではなく表舞台で
活躍してほしかったような勿体なさも感じてしまいます。

良作と思います。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2017-09-11 20:52:44] [修正:2017-09-11 20:52:44] [このレビューのURL]

女性のための大人になって奏でる夢物語。

いくつになっても、現実がどうであっても、
女性は支持してくれる共通のパラダイスを
オールカラーの短編で表現します。

確かに、男性が見ても美しい背景と羨ましいほどの
別世界です。
何といっても物語の中心には、誰からも好かれる
ような美しい男女がいます。
これがややたれ目で絶世の美女ではないんですね。
(男はワンパターンのヤサ男。写真を見る限り、
わたせせいぞう自身がモデルにも見える。)

柔らかい線と明るい色使いのイラストも超一級品です。
デパートかなんかでわたせせいぞう氏の個展を
見た記憶があるほどです。
このイラストに影響を受けた画家さんはたくさん
おられるようです。
わたせせいぞうの名前を知らなくても、このイラスト
はどこかで一度は目にされているでしょう。

メルヘンチックで誌的な文章、言葉の選び方も一流です。
ベースとなる短編ストーリーも大人のための絵本と
呼んでも差し支えないほど素敵です。

わたせ氏は現在大学教授をされているようですが、
同氏の演出や技法は学問として論理的に体系化され
後世に残っていくことは素晴らしいと思います。

しかし、最後に一言だけ。
男性の一部には、ハートカクテルの世界に
アレルギー反応を示す人は少なからずいたかもしれません。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2017-08-01 02:59:51] [修正:2017-08-01 02:59:51] [このレビューのURL]

これまで見たことがない新鮮な作品。

女子していない女子高校球児が主人公で、
漫画だけの特異性があるように思うけれども、
ここまで極端でなくても女子の中には
結構精神的にザワさんしている子がたくさん
世の中にはいるように思う。

そんな男に媚びない一途な女子への憧れが、
作品を読み進める上で強い動機づけになっている。
一途に頑張る人を女子が好きになるだけでなく、
男子だってそうなのである。

そんな女子をできるだけ冷静に見守って
いこうという高校球児たちも美しい。

記憶に残る作品であることは間違いなし。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2017-07-29 15:49:26] [修正:2017-07-29 15:49:26] [このレビューのURL]

シリーズは第5部まで連載中のようですが、第二部の
中退アフロは、モラトリアム人種であるいわば
プータロー族の偉大なる生態ギャグマンガになっています。
10巻を一気に読ませる力のある漫画です。

プータローに関してのあるある話が特に秀逸です。
白石に代表される女性も世俗にまみれた計算高い方々が
よく登場してきて花を添えます。
多くの人に支持されるのは、恥ずかしい青春の怠惰な
一時期を誰もが共有しているらしいことを意味して
いるかもしれません。

忘れられない作品になりそうです。

ナイスレビュー: 0

[投稿:2017-05-01 23:27:40] [修正:2017-05-01 23:27:40] [このレビューのURL]

第一話は“農大物語”というタイトルで始まった。
が、3話くらいから、”もやしもんへ。

テーマとする、菌が見える主人公沢木と仲間が農大で
織りなすばかばかしい日々、がとても良い。
知性の府でもあるが、祭りなどに代表される一体感など、
とても健全な若者の成長機会として農大が描かれ、
部活でもない研究生活でもないノンポリでもない
こんな大学生活が、羨ましく思える読者に支持された
のではないか。
しかし、本作品にステレオタイプの娯楽性を期待するといけない。
淡々と日々が過ぎていく。

一方で、一般学生では考えられない冒険やトラブル、
イベントも織り込んであって、渡仏編、渡米偏、ミス農大
降ろし編、高校生西尾編などは一気に読みたくなる
荒々しさもある。

6巻は特に良かった。結婚を隠してフランスに渡る長谷川遥を
追って、でこぼこ3人組のフランスワイン畑での奮闘ぶりと
ワイン畑を守るフランス農家の魂、美里と遥の逃避行は楽しめた。

“発酵”や“農業”、“地ビール”、“日本酒”、“添加物”、
“食料自給率”などへの薀蓄(うんちく)や見識については、
半端ない専門的知識と解釈を提示してくれる小気味よさがある。

さらには、ここが一番の魅力だが、登場する女性が皆可愛く、
格好良く、知性満載だ。
周囲を彩る師匠(教授)や小汚い貧乏学生などのサブキャラも
際立っている。

漫画の新しい可能性を開拓してくれた貢献についても評価したい。

ナイスレビュー: 2

[投稿:2017-03-14 19:44:27] [修正:2017-03-14 19:44:27] [このレビューのURL]

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