「とろっち」さんのページ

体操というジャンルを扱った漫画でこの作品を超えるものは今後出てくるのでしょうか。
そのぐらいの完成度と面白さを兼ね備えた、素晴らしき少年漫画。

原作は、自身がオリンピックで10点満点を出した金メダリスト・森末慎二氏。
というか本当に森末さんが考えたのか?と疑うぐらいに面白いです(失礼ながら本当らしいです)。
前半部分は特に対象年齢が若干低めな感じもしますが、それもそのはず。
そもそもの連載目的が、若い人にもっと体操に興味を持ってもらいたいから、とのこと。
体操の人気低下を危惧した森末さんが、そのために青年漫画誌ではなく少年漫画誌に漫画原作企画を
自ら持ち込んだ、と当時インタビューで答えていたように思います。

笑いあり、涙あり、ラブコメ部分はママゴトみたいですが女の子キャラもかわいく、
読めば熱くなり、ドキドキワクワクできる、非常にバランスの取れた作品です。
体操に関しては森末さんが原作だけあって詳しくてわかりやすく、その上リアリティに溢れています。
技とか成功しすぎという声もあると思いますが、実際に10点満点取った人が原作ですし。
何より、不安、緊張、葛藤、苦悩、昂揚、という選手の心理描写がとても丁寧で臨場感たっぷり。
だから練習の場面が面白い。 そして試合の場面はもっと面白い。 これは良いスポーツ漫画。

少年スポーツ漫画だけあって、他の様々な作品の例に漏れず主人公の天才っぷりが半端ないですが、
魅力的なのが先輩たち、通称・三バカのキャラ。
「跳馬の(真の)スペシャリスト」、「ゆかの貴公子」、「つり輪のヘラクレス」。
いやあこの3人は本当に好きだったなあ。 笑えるし泣けます。

全34巻と長丁場な作品ですが途中でダレることもなく、むしろ前半よりもそれ以降の方が面白いです。
アジア大会の盛り上がりが凄い中盤、そして五輪代表選考からシドニー五輪へとつながる後半。
ただ気になったこととしては、この作品のピークはメインであるシドニーオリンピックではなく、
その前の代表選考ではないかと思えてしまいました。
言い換えれば、代表選考が面白すぎてオリンピック本戦が物足りなく感じてしまいました。
あとついてにもう1つ、この作品(特に前半)は少年漫画の王道パターンであるトラブル発生→解決、が
多用されますが、そのトラブル発生が強引すぎて無理やり感がありました。 そこがちょっと残念。

最近は大人向けとも思えるような少年漫画も多いですが、対象年齢が低めに設定されていること自体は
その漫画の評価において決してマイナスではない、そんな好例の作品です。
少なくとも、体操に興味を持ってもらう、という当初の目的に関しては文句の付けようもありません。
体操の魅力を十分に表現した、爽やかで胸熱くなるような少年漫画。
オリンピックの度に読みたくなる作品です。 ちなみに現在では体操のルールも大きく変わってしまって
10点満点ではなくなり、技の最高難度もEではなくFやGまで上がったらしいので、そこを踏まえつつ。

ナイスレビュー: 3

[投稿:2011-06-16 16:13:07] [修正:2011-06-16 16:14:59]