「boo」さんのページ
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「闇夜に遊ぶな子供たち」の続きも読みたいけど、出ても同人になりそういうのは実に残念な話。
ホラーMがなくなったのはやっぱり痛い。
10点、9点…個人的なバイブル、名作。
8点、7点…お気に入りの作品。
6点、5点…十分楽しめた作品。
4点以下…うーんって感じの作品。わりと適当。

6点 DCスーパーヒーローズ
DCスーパーヒーローズはアレックス・ロスとポール・ディニに手がけられた作品が一つに集められたもの。スーパーマン、バットマン、ワンダーウーマン、キャプテン・マーベルの4人のヒーローそれぞれの中編に加え、DCの主だったヒーローのオリジンを描く「JLA:シークレット・オリジンズ」、JLAの未知のウイルスへの奮闘を描く「JLA:リバティ・アンド・ジャスティス」が収録されている。
日本で初邦訳のものはワンダーウーマンとキャプテン・マーベルのものだけで、他はJIVEなどで個別に作品が刊行済み。しかし絶版によってとんでもないプレ値になっていたので、それらを持っていない私にとってはこの値段でさらに合本となると、まあありがたいことです。
この調子で小プロにはバットマン:ブラック&ホワイトやマーヴルズあたりを再刊してもらえると、小プロのアメコミ邦訳中断期前の作品は大体揃うはず。ぜひぜひお願いしたい所。
まず目を惹くのはやはりアレックス・ロスのアート。キングダム・カムをまだ読んでいない私はこれがロス初体験だったのだけれど、アメコミ界最高のペイント絵師の名に違わずすごい。特に力を入れている絵なんて本当に映画かと見紛うほど。巻末で解説されているように、わざわざモデルを使って描いているそうでとんでもないです。
ただ写実という点で頂点に立つ絵師だろうなと思った一方、ロスの絵を見ると漫画的な絵が恋しくなっちゃうのも正直な所。実はあまり好みではなかったりするんですが、すごさは認めるしかないよなぁ。
内容面では何というか、味わいがすごく似ている作品が多い。どのヒーローも勝ち得ないものに立ち向かい、苦悩する。そして彼らはみんなあくまで“人間”なのだ。特にスーパーマンやワンダーウーマンの話は古いワインを新しい皮袋にじゃないけれど、やっていることは結局GL/GAと変わらない。
似たテーマを扱っているからこその作品集なのだろうけど、正直色んな意味で相互が似ているし、新鮮味はあまりない気がする。キャプテン・マーベルやバットマンの話はわりと好きです。
JLA:リバティ・アンド・ジャスティスに関しては、これまでJLA自体を見たことがなかったので、かなり新鮮に楽しんだ。特にジョン・ジョンズとか、DKRの時なんて特に謎に思っていたので助かります。
でも特筆してこれ!っというのがあるかというとあまりなくて、単純にヒーロー同士の共演を楽しむ部分が強かったりする。これも“人間”を強く意識しているのは同様だけれども。
テイストの近いDC作品やシークレット・オリジンズが収録されているというのもあって、DCを知るにはわりと良いんじゃないかと。これが典型かというと、多分そんなことはないけれど、どのヒーローがどんな感じかというのはそれなりに理解できる。
そういう意味ですごい傑作というわけではないけれど、やはりDC好きなら必読の作品。DCキャラクター大辞典と併せてDC入門におすすめです。
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[投稿:2012-01-15 12:21:26] [修正:2012-01-15 12:21:26] [このレビューのURL]
6点 レッドツリー
ショーン・タンのある少女の一日を描いた絵本。一コマ漫画。
誰しも何となく憂鬱な日というのはあるだろう。誰も自分のことを考えてなくて、何にも素敵なことは起こらなくて、つまらないことばっかりが訪れる。そう、まるで世界に見放されたような…。ショーン・タンがそんな暗い何かに囚われてしまった少女を描いたのがこのレッドツリーだ。
以前レッドツリーは同出版社から“希望まで360秒”という副題をつけられたものが刊行されていた。昨年日本でのショーン・タン人気の高まりを受けてか、あまり評判のよろしくなかった副題を取り除き、一回り大きなサイズの新装版が再び刊行されている。
やっぱりショーン・タンの素敵な絵と魅力的なカラーリングは新装版の方がより際立って楽しめる。高いなと感じる方は英語はちょろっと絵に挟まれるくらいなので、洋書の方も選択旨に考えるとよいかもしれない。
誰にも自分を分かってもらえない。窓の外を見ると、自分以外のみんなは楽しそうだ。そんな孤独感と寂しさをショーン・タンは奇抜だけれど、本当に私達の心の中を覗いているかのような想像力で絵に仕立て上げる。心の中には迷宮があり、怪物が巣くう。
もちろん一枚の絵だけを見ても、素晴らしい。ただこれ程までに心に迫って、少女に深く共感してしまうのはやっぱり私にもこんな一日が訪れることはあるからだ。
もちろん落ちることもあれば上がることもあるわけで、いつまでも沈んでばかりではいられない。最後には素敵な出会いが少女を、私達を待っている。
「時には、何も楽しみなことのない一日が始まることもある」
そんな日にはレッドツリーを読むとちょっとだけ希望を分けてもらえるかもしれない。そして寝る前に読めば、明日はきっと何か良いことがあるはずだ、そんな気持ちにさせてくれる。
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[投稿:2012-01-15 11:49:12] [修正:2012-01-15 11:49:12] [このレビューのURL]
高野文子のB級センス大爆発!、なかっけぇ漫画。
まあそもそも高野文子といえばセンスの塊みたいな人です。漫画家の中で天才を一人選ぶとしたら多分私はこの人を選ぶ。
そんな人が全力を傾注して超B級なスパイものをやるとなると、超イカした冒険活劇になるのは至極自然なことで、絵に見はまり過ぎて最初はストーリーがさっぱり頭に入らないのも至極当たり前なわけ。
お金持ちのお嬢さんのメイドをしていたラッキー嬢はちょっとした悪ふざけでメイドを首になってしまう。ひょんなこんなでデパートを巡る陰謀に巻き込まれた彼女は“一見ただのかわいいデパートガール。しかしその実体は―――極秘文書受け渡しの任務を受けた勇敢な一少女特派員”になってしまうのだった。
捻くれている好みだろうか、私はB級というよりB級愛に溢れた作品が好きなのだ。B級という言葉は人によって捉え方が様々かもしれないけれど、私にとっては独特の“チープさ”。そのチープさを巧く自分の作風に取り入れたものって波長が合えば何ともたまらない魅力がある。
例えばプラネット・テラー in グラインドハウス(だって義足がマシンガンだし)や血界戦線(だって世界救いまくるし)とかね、もう大好きです。で、このラッキー嬢ちゃんのあたらしい仕事もそんな作品の一つ。
ストーリー見れば分かるでしょ。めっちゃチープですよ。夢と希望のデパートで繰り広げられる一国の命運を握るお話ですよ。悪の親玉も、王子さまも、機知に満ちた会話と駆け引きも、可愛くて素敵な女の子も、ハッピーエンドも、何だってデパートのように品揃えが良くてかつ大安売りなんですよ。
要はもう高野文子の好きなもん全部詰め込んだってことで。で、そんな漫画が私は大好きってことで。
そんな魅力的なお話を盛りたてるのはやはり魅力的な高野文子の絵。高野文子はわりかしシンプルな絵だけれど、その線はついつい見惚れてしまう程素敵で、絵の見せ方という点で追髄出来る人はいない。この作品において、高野文子のペンはいつにも増して縦横無尽に動き回る。
ラッキー嬢は縦にも横にも自由自在に走り、止まり、落ち、踊り、飛び跳ねる。読むうちに時間の感覚が狂ってくる。他の漫画家が3速くらいしかギアを切り替えれないところを高野文子は13速くらい切り替えることができるのだ。映画のようなスピード感があるのに、でも確実に漫画なんだよなぁ。高野先生は化け物ですか?
ラッキー嬢ちゃんのあたらしい仕事を好きな人となら、私は一緒に楽しく飲み明かせる気がする。趣味の映画や漫画の話をぜひぜひしたい。そんな漫画。
高野文子本人はこれを失敗作と言ったそうだけど、私は大好きです。高野作品でも一際異彩を放つこの漫画、好みに合うかもと思った方はぜひぜひ。
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[投稿:2012-01-05 23:14:31] [修正:2012-01-06 00:01:54] [このレビューのURL]
9点 フラワー・オブ・ライフ
少年漫画は“特別”な一人に対する憧れを描き、少女漫画はありふれた日常を“特別”に描く。とは私が勝手に思っていることだけれど、多分大体において間違ってはいないと思う。
フラワー・オブ・ライフのことを考えたとき、色んなところで言われるように、思い浮かぶのはやはり彼らの笑顔なのだ。フラワー・オブ・ライフはまさに人生の花を描ききった作品であって、少女漫画の一つの完成形にさえ思える。
この作品において、彼らはすっごく青春を満喫している。楽しそうで、充実していて、こんな高校生活を送れたら…と願わない人はいないだろう。
でもそこに不思議と嫌味や嫉妬の感情は浮かんでこない。これは「Papa told me」もそうだけれど、日常を楽しく見せてくれる漫画はしっかりとその裏にある努力を描いているから。フラワー・オブ・ライフでいうと、その努力とはとにかく“空気を読む”ということ。気を回しあって、みんなが一番幸せになる形を作ろうとしているのがしっかり伝わってくる。
でもそれは決して良い子という意味ではないし、“幸せ”を型にはめようとしないのがよしながふみらしさ。例えば真島を見ればよく分かるように、彼にとってはクラスのみんなと打ち上げをしたりすることを望んではいないし、クラスのみんなも真島に参加して欲しいとは思っていない。じゃあどうするのか?…は読んで欲しいのでここには書かない。
みんながみんな賞賛する方法ではないだろうけれど、私はこのエピソードが好きだった。全部を手に入れることは出来ないのだから、楽しく過ごすためにはそれなりの代価が必要なわけで。
2巻以降のクラス劇なんか本当に楽しいのよ。こっちまで笑って笑ってたまらないくらいに楽しい。でもそんな日常の楽しさを極めた一方、打って変わって最終巻では日常の貴重さが存分に描かれることになる。
決して“普通”というのは絶対のものではないのだと言い切った時、フラワー・オブ・ライフは少女漫画の枠を超えた。雰囲気が変わるのに戸惑う人もいるだろうけれど、この最終巻があってこそ、それまでがさらに輝きを増すのだ。
“普通”というのは成長においてもこの漫画の一つのキーワードになっている。成長とは強くなることか?それとも勇気を出せるようになることか?、少年漫画においてはそうかもしれない。
フラワーオブ・ライフの高校生達も最終巻でそれぞれが確実に成長を見せる。でも彼らにとっての成長とは、自分が総体的には普通であると認めることだった。友人でも恋でも相手への感情と相手の自分への感情は決して等価ではないし、自分が本当に欲しいものが手に入るとは限らない。だからこそ自分の殻を破って人とつながれるようになるのだ。春太郎と真島が主軸であったにしろ、細かい所まで読み込むとほとんどのキャラクターにしっかりと見せ場と成長があったことが分かって素晴らしい(尾崎は知らない)。
よしながふみは彼らの青春と成長を華々しく、そして繊細な描写で描ききった。真島の「滋?」はいつもポケットにショパンの「麻子はシチューが得意です」に並ぶ私の少女漫画の至言です。
これ以降よしながふみが一般誌で連載を続けているのも、もはや少女漫画というフィールドで彼女がやれることはなくなってしまったということかもしれない。でもいつかさらに大きくなってホームに帰ってくるのを楽しみに待ってます。
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[投稿:2011-12-21 00:30:23] [修正:2012-01-04 02:06:07] [このレビューのURL]
7点 ボーン
ボーンほど邦訳アメコミで、アメリカでの評価と日本での知名度がこんなに乖離してる作品はないんじゃなかろうか。ハーベイ賞、アイズナー賞に毎年のように輝いている1990年代を代表するシリーズなのにも関わらず。実際アメコミ作家でも、お気に入りの作品としてボーンの名前は挙げる人は少なくない。
アメリカで1巻が出たのが1995年だから、3年と比較的短い期間で邦訳が決定されたのは出版社の意気込みと自信の表れだったのだろう。でも売れなかった…らしい。既にアメリカでは9巻で完結しているのに、邦訳は第一部にあたる3巻まででストップしている。残念至極。
多分タイミングも悪かったんだろうなぁ。日本のアメコミが下火になり始めていた時期だし。しかしあまり現在でも話題にならない所を見ると、アンカルやモンスターのように邦訳が再開される可能性は低いと思わざるを得ない。うーむ…。
「ボーン」はその名の通り、白くて丸い、つるつるしたカートゥーン調のキャラクター、ボーンという種族の3人を中心とした物語。
その中の一人、フォニーが故郷の村でみんなを怒らせるひどい事件を起こして村を追い出される所から物語は始まる。そして彼の従兄弟である、フォーンとスマイリーも彼を心配して一緒に旅に出るのだった。しかしイナゴの大群、ラットモンスターとの遭遇など色んな出来事が重なって3人は離れ離れになって…。
優れた子ども向けのファンタジーというのは大人が読んでも楽しいものだ。指輪物語やはてしない物語、精霊の守り人のような、ボーンはそんなそうそうたるファンタジーの一つと言っても良いと思う。
常識と勇気のあるフォーンの報われない恋と冒険を心から応援し、“脳なし”スマイリーのとんでもない行動に笑い、計算高く強欲なフォニーのしょーもない企みはもちろん失敗に終わる。そして何より3人がたどり着いた谷を巡る謎に胸を躍らされ、世界を救う壮大な冒険は幕を開ける。ボーンを楽しむのに年齢は何の障害ももたらさない。小学生でもおじいさんであっても胸がわくわくするはずだ。
ジェフ・スミスのアートも素晴らしい。白と黒のはっきりとした色調とボーンを描く気持ちのいいペンのタッチは何度見ても惚れ惚れする。普段アメコミと聞いて想像するようなリアリティ重視なものではなくて、スヌーピーのようなカートゥーン路線なので漫画読みでも馴染みやすいだろうし、個人的にも大好きです。
ボーンやラットモンスターも始めとしたデザインも、性格も個性的な面々なので、それだけでも楽しい。特に“愚かな”ラットモンスターが私のお気に入りなのだけれども笑。
唯一残念なのは最初に述べたとおり、第一部である3巻までで邦訳が止まっていること。さらなる冒険が幕を開け、一番わくわくが高まっている所ですよ…。まじ勘弁してくれ。
これは原書買って読むしかないなー。英語も比較的易しいだろうし、白黒だから値段も安いし。でも彩色されたバージョンも完結後に刊行されていて、そっちの評判も良い感じなのですよ。悩むわ。
邦訳ストップということさえ覚悟してもらえれば、おもしろさは保証します。だからこそ残酷とも言う。でも今からでも遅くないから読んで、何かしらのアクションを少しでも多くの人が起こせば可能性はあるかもしれない。海外マンガが現在盛り上がっているタイミングでもあるし。
ということで、ぜひともこの愉快痛快なファンタジーを読んでみて下さいな。私は既に大ファンになってしまった所です。
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[投稿:2011-12-18 01:28:10] [修正:2011-12-18 01:28:10] [このレビューのURL]
8点 皺
「皺」はスペインの作家、パコ・ロカの作品。表題作「皺」と「灯台」の中篇2つが収められている。
基本的に日本で邦訳される海外マンガのほとんどはアメコミ、もしくはフランスのバンド・デシネ関連という中で、スペインの作品が刊行されたというのはよっぽどのこと。それだけ出版社もこれを推したかったのでしょう。ありがたや。
「皺」は物忘れがひどくなったおじいさん、エミリオの面倒を見切れなくなった家族が、彼を老人ホームに入所させる場面から始まる。最近の記憶に加えて過去への記憶さえも失われてしまう認知症、アルツハイマーを主軸にパコ・ロカは“老いること”を丁寧に、良い意味でコミカルに描く。
アルツハイマーと聞いて私が思い浮かぶ小説に、萩原浩の「明日の記憶」がある。こちらはもうどうしようもない恐怖だった。記憶がなくなり続け、“自分”がなくなってしまうことへの焦燥と絶望、そしてそれらの感情を含めた全てが最後には消え去ってしまう。ほぼホラー。
「明日の記憶」と「皺」は似てもいるし、でもやはり決定的に異なる。パコ・ロカは老人たちをシンプルに、でも優しいタッチで描き、淡いセピア調のパステルカラーで色をつける。人生の夕暮れに、彼らは夢と過去の中に生きている。それは必ずしも不幸なことだろうか?とパコ・ロカは問いかける。
自分じゃなくなっても、ここじゃないどこかであっても、彼らは生きているんだよ。そんな優しい諦観が切なくもあり、幻想の中にいる彼らが哀れにみえるのは私達の思い込みに過ぎないのではないかとも思わせてくれる。それはそれで彼らは幸せなのかもしれない。
老いと向き合うのは自分である一方、他者の老いとも向き合っていかねばならない。そう、私が「皺」で心をうたれたのは、日々自分を失くしていく彼らと共に過ごす人々の姿。消えていくものに特別はなく、連れ合いの、友達の記憶すら消えていく。
老人ホームには比較的頭がしっかりとした人も少なくない。でも悲しいことに彼らこそが忘れ去られる側なのだ。認知症の人々よりも、寂しく、辛く見えるのは頭がしっかりしている彼らという矛盾。友達の中の“自分”が消えていっても寄り添う彼らは温かくもあり、哀愁を感じさせもして、たまらない。
人と人の“つながり”とは思い出で出来ている。だからこそ、そのつながりが一方通行になってしまう(もしくは断絶してしまう)老いは残酷でもあり、思い出の大切さを反面突きつける。
彼らの奇矯なふるまいをユーモラスに感じつつ、胸の奥はちくりと痛い。老いは自分の先でも確実に待っているのだから。でもエミリオたちはそれだけではないのだよ、語りかける。
そしてそのような全てが最後のページいっぱいに詰め込まれる。そりゃあ泣くさ。何と人間への愛に満ちている素敵なラスト。
パコ・ロカさん、漫画描くのが巧すぎます。細かい描写やエピソードを積み重ね、一つの大きなストーリーを形作る。そんな当然のようでいて、一番難しいことをこんなに力を抜いてやれる作家がどれだけいることか。
それでいて最後の“顔”のような漫画でしかできない表現もやれてしまうとなると、もうすごいとしか言えない。世界は広いなー。日本もうかうか出来ませんよ。
「灯台」もまた素晴らしい。灯台をテーマにした漫画って日本じゃあまり見ないけれど、これや「ひとりぼっち」を見ると、“孤独と冒険への道しるべ”というモチーフとして灯台はすごく適しているのが分かる。灯台守は格好良くて、青年兵士の船出にはぐっとくる。
「この海外マンガがすごい2011」でもシビル・ウォーやアンカルなど名だたる話題作を押しのけて一位に輝いたこの作品、それだけ多くの人々がこの漫画を大好きということでもあり、誰もが無視できないことと向き合った一冊でもあるということ。
これは不老不死でもない限り、読んで確実に得られるものがある。日本の漫画好きこそ、「皺」のすごさが分かるはず。
追記
そういや「皺」はえすとえむ先生が絶賛してる(帯も書いてる)のだけど、邦訳の刊行にも深く関わっているそうで、これまたありがたや。えすとえむ好きの方もぜひどうぞ。
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[投稿:2011-12-14 00:37:26] [修正:2011-12-14 23:33:31] [このレビューのURL]
7点 うどんの女
まず表紙のインパクトがすごい笑。うどんにまみれている女。ではどんな話なのかというと、大学食堂でうどんを作る年増女と大学生の草食系男子のラブコメディーということ。
えすとえむというと以前記事を書いた働け!ケンタウロスを先に読んでいた。やってることは結局ケンタウロスと同じなのだけれども、こっちの方が私は好き。
うどんの女にしろ、ケンタウロスにしろ、設定があまりにもキワモノなので、冒頭を読んだだけでは多分全うな恋愛ものとして捉えられないでしょ。片やケンタウロスなのは当然として、うどんの女にしろ二人の出会いがすげぇおもしろいもん。でも違うんだよなぁ。
うどんの女は、毎日うどんを食べに来る草食系男子を見て、栄養を心配すると共に、はっと考える。…この子、私のこと好きなんじゃない?
草食系男子は、素うどん頼んだはずが、あまりに大量のねぎや時には頼んでない惣菜が載っていたりして、世話焼きなおばちゃんなのかと疑いつつ、はっと考える。あの人おれのこと好きなのか?
そんなこんなで二人の距離は接近していくのだけれども、こんな出会いが運命の出会いとは思えないないよねぇ。でもえすとえむがすごいのは、これもありかもって思わせてしまうところだ。
いつの間にかケンタウロスをギャグから、実際に人間社会に生きる異分子として描く漫画に変質させたように、うどんの女はコメディと純粋な恋愛話の境目を気付かれないうちに泳ぎ回る。違うのはケンタウロスが踏み越えて戻らなかったラインを、行きつ戻りつしていること。
で、私はえすとえむのそんなバランス感覚がすげぇ好みだった。頭がどうなってればこんな漫画を描けるんだろう。BL出身の作家には特異な才能をお持ちの方が多いとは最近つくづく思うけれども、えすとえむは飛び抜けてるなぁ。変な人。
ケンタウロスよりうどんの女が好き、というのはそのバランス感覚ももちろんあるし、加えてこちらが連作短編だったのも大きかった。
えすとえむがおもしろい短編が描けるのは疑いない。でもケンタウロスの一話完結ものを見た感じだと、それは多分いびつに突出した才能であって、すごい!とはなっても参りました!とはならなかった。連作短編形式で、ある程度じっくり心情を掘り下げていく方がこの人の特異な才能には向いてるのかな、と思う。
二人の変な食い違いや変態的妄想に笑わされるかと思えば、次の瞬間には心をわしづかみにされるくらいぐっときたりする。そして実際うどんはエロく見えてくる。今までにない漫画体験。
…参りました!おもしろい!
いやー、本当にこの人はどこから出てきたんだろう?色んな漫画を読んできた中で、荒木飛呂彦にしろ弐瓶勉にしろある程度源泉は見えてきたけれど、えすとえむは分からない。分からないというのはすごく新鮮ってことだ。海外マンガを読んでる感覚に近い。違う場所から生まれたような。
うん、もう私的お気に入り作家の一人ですわ。好きです。まだ二つしか読んでないけれど、他のも読んでみよう。また色の違うケンタウロスものっぽい「equus」とか気になる。
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[投稿:2011-12-14 23:12:50] [修正:2011-12-14 23:12:50] [このレビューのURL]
6点 はたらけ、ケンタウロス!
これはすごい。ケンタウロスなのに、気付けば彼らに笑い涙しそうなのがすごい。ケンタウロスなのに…。
ま、ケンタウロスって時点で大体の人はまともな漫画は期待してないじゃないかと思うわけで。だってケンタウロスですよ。これ以上ないクラスの色物ですよ。半人半馬ですよ。
実際最初の話はそんな期待にしっかりと応えてくれる。会社員として働くケンタウロス、健太郎。もはやだって名前があれでしょ、笑わざるをえないでしょ。そんなこんなで良くこれだけ尽きないなと感心するような質の高いケンタウロスネタが続いて最高に盛り上がる。
でもこれだけだったらこの漫画ってないようで、実はけっこうある一発ネタの漫画の範疇にすぎないのだけれども。いわゆるテルマエ・ロマエや聖おにいさんのような斜め上の発想とその鮮度をどれだけ保てるのか、という話になってくる。
そう考えているとまた全然勘違いしていたことに気付かされてしまうわけで。要はえすとえむは本当にケンタウロスを現代社会に放り込みたかったのだ。現代社会に生きるケンタウロスを描きたかったのだ。健太郎の話から生まれる笑いというのは多分、それらの副次的な要素にすぎなかった。
前半の健太郎シリーズが終了した後、笑いは控えめになる。読者が慣れてしまったということもあるのだけれど、多分慣れさせられてしまったのだ。もはやここはケンタウロスが実際に人間と共に働いている社会。
異物ではなくて、異分子となったケンタウロスは急にピエロではなくて社会のマイノリティの様相を帯びてくる。ギャグではもうありえない。「Papa told me」のように、都会で寂しく生きる人々の気持ちを繊細に描いていく。彼らの生き様に、友情に魅せられ、涙する。
でも読み終わってはっと気付く。ケンタウロスだよ!?半人半馬だよ!?…いや、なかなかない経験ですよこれは。ケンタウロス漫画と聞いて想像していたものがいつの間にか変質し、違うものになっていく。すごい才能のような、でも才能を全力でどぶに投げ捨てているような。でもとんでもない漫画であることは間違いない。
ちなみにBL部分は時に“友情”部分が気になることもあるけれど、表立ってはいないので別に気にならないレベル。苦手な人でも大丈夫だと思います。
色物なのか、そうではないのか、でも結局やっぱり色物だよなと思いつつ。これは一読をおすすめしたい漫画。ケンタウロスのとりこになるやもしれない。一応1巻完結のようだけれど、また別に描いてるようで、続きも出そうではあるのかな?出オチでは確実にないので、続刊がいつかでることを期待してます。
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[投稿:2011-12-11 00:48:52] [修正:2011-12-11 00:48:52] [このレビューのURL]
8点 昭和元禄落語心中
1巻しか出てないけれど、これはおもしろい落語もの。
近頃のBL界隈から飛び出してくる才能の宝庫ぶりってやばくないかい?よしながふみに始まって最近だとえすとえむやこの雲田はるこ、と少女漫画界隈とはまた違った種類の、より成熟した才能が揃っているように思う。
また広い感性を持った少女漫画家がここ数年青年誌に進出し始めたように、BL界隈からも一般誌で連載を持つ作家が多くなってきた。2010年に講談社から創刊された「ITAN」に掲載されている「昭和元禄落語心中」はそんな作品の一つ。
昭和末期、刑務所の中で昭和最後の大物と呼ばれた八雲師匠の落語を目にした元ヤクザは彼の落語に一目ぼれししてしまう。元ヤクザ、でも人好きのするお人よしである与太郎(バカで間抜けな男のあだ名)は八雲の所に押しかけ、何とか弟子にしてもらうことに成功して…。
まだ1巻しか出てないから書こうかどうか迷ったのだけれども、信頼できるおもしろさとある程度1巻で方向性は示されているので今の内に推しといてもいいかなと。今年出た1巻に限定すると、トップクラスの潜在能力があるのは確かだろうし。
何といっても表情がすばらしい。雲田はるこはまだ若い方だと思うのだけど、こんなに漫画的な意味で絵を達者に描ける人はなかなかいないだろう。ころころ変わる落語を演じる者の表情をユーモアたっぷり、魅力たっぷりにこの人は描き上げる。時には凍りつくように、時には馬鹿馬鹿しく、多彩に読者の心を揺さぶってくる。
もちろん漫画的な絵の上手さだけではなくて、画力も高い。入江亜季に影響を受けたのかな?、絵柄は似ている。関わりがあるかは分からないけれども。
多彩、というのは落語だけではない。与太郎が伝統芸能に体当たりで挑戦していく熱血パートが主軸であるものの、八雲の若き頃のライバルかつ親友であった故助六の死にまつわる話もその娘である小夏が絡みながら脇で進んでいく。与太郎に笑い、熱くなったかと思えば、小夏には何とも切なくなる。
そして極めつけは八雲師匠。この人が本当に素晴らしい。まず“美人”に枯れたオヤジを描ける作家というのが稀有。すっごくセクシー。こんなに特異かつ傑出したフェティッシュな感性を持っているのはさすがBL作家の面目躍如と言った所かもしれない。いや、与太郎が惚れる気持ちも分かりますわ(>違うだろ)。
ということで今年1巻が出た漫画としてはかなりおすすめ。新星という意味でもかなり衝撃を感じた作家さん。
春に出ると予告されている2巻を楽しみに待ってます。既にこの質で続いてくれるだろうな、と信頼しきっちゃってるくらいには練りこまれたおもしろさ。
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[投稿:2011-12-10 01:42:53] [修正:2011-12-10 01:46:07] [このレビューのURL]
バットマンの一年目を描いたミラーの有名作。
クライシス後に仕切りなおしたバットマンの再出発を飾ったのがこのイヤーワン。DKRの流れを引き継いで、その後のバットマンの方向性を決定付けた傑作に星三つとは何ぞや?と怪訝に思われる方もいそうで戦々恐々ですが、これにはいくつか理由がありまして。
実は私が読んだのはこのヴィレッジのイヤーワン/イヤーツーではなくて、さらに言うとジャイブのイヤーワンでもなくて、以前小プロから刊行されていたスーパーマン/バットマン。普通に買うよりこっちが安いし、スーパーマンのオリジンであるマン・オブ・スティールが読めるのはこれしかないし、こっちがお得じゃね?と思ったら一つだけ落とし穴があったのですよ。
というのもジャイブ以降のものは今のアメコミの主流であるシックな色合いでリカラーリングされているのだけど、S/Bに収録されているものは昔のアメコミのイメージそのままのような原色の派手派手しいカラーリングになっちゃってる。00年代のアメコミ読みである自分にとっては、この良く言えば“味のある”カラーリングは正直辛いものがあって…。てか同年代のマーヴルクロスと比べてもこれのイヤーワンのカラーはかなり粗雑だと思う。
じゃあ新しいのを買えばいいじゃん?と思われるかもしれないけれど、新しいのは絶版かつひどいプレ値になっているのだよ、アメコミ読みは周知の通り。しかしバットマン入門書として一番に勧められるであろうこの作品が絶版というのは不味いと思うんだ、うん。ヴィレッジが小プロに比べて規模が小さいのは分かった上で、これはアメコミの一つの入り口だからなぁ、頑張って欲しい。再販希望も多いだろうに。
どうしても読みたい、でもあの値段は無理、という方はカラーリングが昔風というのは覚悟した上でスーパーマン/バットマンを買うと比較的安い。もしくはイヤーワンの原書か。ただ来年ダークナイト・ライジズが公開なので再販の可能性も高いとも思われるわけで…。保証はないので各自でご判断くださいな。
作品自体とはちょった離れた話になってしまったので、話を戻す。
名前の通り、イヤーワンはバットマンの一年目のお話。冒頭で述べたように、DKRの路線を引き継いだバットマンの作風となっている。シリアスで重厚な雰囲気とミラーお得意のハードボイルドなストーリー展開が格好良い。
バットマンも各地で修行してきたとはいえ、まだまだ犯罪者と戦うのには慣れていない。手ひどいミスを犯し、大怪我を負うこともある。一方後の盟友、ゴードンもゴッサムの警察署に配属されたものの困難は多い。腐敗した警察署に戸惑い、立ち向かうものの孤立するゴードン。二人ともまだまだ若く青いが、それがまた妙に人間くさく、好感が持てるのはミラーの手腕ゆえ。ゴードンなんて浮気もしちゃうし。
そう、これはバットマンの一年目だけではなくて、ゴードンの一年目でもある。バットマンが立ち上がる話でもあり、ゴードンが立ち上がる話でもある。そして彼らに少しだけではあるが、確かな絆が生まれるまでが描かれた作品なのだ。
私はミラーのハードボイルドは大好物なのだけれども、イヤーワンに関してはどうしてもボーン・アゲインと比べてしまう部分がある。基本プロットが似てて、ボーン・アゲインの方があまりに素晴らしすぎる、となるとイヤーワンの感動が薄れてしまうのもしょうがないかなと思うわけで。
ただ前述したように、カラーリングがあまり合わなかった部分もあるから一概には言えない。いつか復刊して改めてリカラー版を読み直したら、もう一度何かしら感想は書こうかなとは思ってる。
しかし個人の好みは置いておいても、バットマンを読んでいく上で最重要級な作品であるのは間違いないのでつくづく絶版なのは残念だなぁ。「The Man Who Laughs」から、「ロングハロウィーン」のような忘れられたマフィアを拾ってきたものまで初期作品群につながる伏線はいくつもあるし、何といってもオリジン読まないと始まらないというのはあるわけで。
しかしやはりそういう意味では、続編を作るのに広く幅を持たせた上で違和感なく物語を作り上げたミラーはすごいな。バットマン始まりの作品としては単体の質としても、その後の可能性を無数に示したという意味でもこれ以上が望めない傑作であることは間違いない。
スーパーマン/バットマンの刊行が中途でストップしたため、イヤーツーは私も中途半端なところまでしか読んでいないから何とも言えない。どうやらイヤーワンに比べると小品というのが一般的な認識のようだけど。
イヤーツーは現在なかったことにされてるっぽいしまあいいさ、っと書いてみて一応英語wikiで確認すると…おいおいゼロアワーでなかったことになってインフィニットクライシスでまた微妙にあったことになったらしい。呪われよ!
現実世界でも何とかクライシスが起こって絶版とかS/Bの刊行ストップとか色々なかったことにならないかな、ついでに「A Death in the Family」につながるイヤースリーまで含まれた完全版が出ないかな、とかどうしようもないことを言ってオワル。
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[投稿:2011-12-09 02:30:32] [修正:2011-12-09 08:13:05] [このレビューのURL]
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